バールナース短編小説群(Side-stories of Crowbar Nurse)

秋の夕空、金色、はんぶんこ

彼女が安っぽい単層ガラス窓をガラリと開けると、ひやりと清涼な空気が部屋の中に入ってきた。 「ふーっ、生き返るー」 揺れたカーテンが風といっしょに彼女の頬をかすめたので、彼女は思わず笑みをこぼした。 ──空気が酸っぱい黒ずんでいると散々な言われよ…

断じて熱中症ではない・2

さて、彼はしばらくぼんやりとした表情で窓の外の景色を眺め続けていたが、やがてそうすることにも飽きたらしい。 青い空からふっと彼女が操作しているスマホの画面へと目を転じた。 彼女はどうやら、先ほど撮っていた浴室中の画像をいじっているようだ。 (…

断じて熱中症ではない・1

二人とも完全に油断していた。 とある夏の、土曜の昼下がりのことである。 その日のS宿駅西口にある某ビルの温度計は、36度を示していた。 それ自体は特に珍しいことでもない。 しかし、そんな酷暑日ともいえる日に、彼と彼女はエアコンが壊れている飲食…

短編「ハロウィン小話」

だぼだぼの緑のハイネックと、ゆるゆるのデニム素材でできた青いつなぎ……という服装で、彼女は彼の自宅に遊びに来た。 玄関先でお色気度数ゼロの萌え袖状態になっている両手を広げ、彼女こと笹野原夕は、花の綻ぶような笑顔で言う。 「ハッピーハロウィン!…